ザ・ペリオドントロジー 序文

 『歯周病学』は石川烈先生を編集主幹として1996年4月に初版が刊行されました。その時の基本姿勢は、歯周病学を登山に例え、「単に頂上を目指すので はなく裾野や中腹から山を眺め、新たな登山道を切り開く」というものでありました。その結果、旧来の教科書とは異なり基礎編、臨床編ともに斬新かつアカデ ミックな内容となり、さらには21世紀における歯周病学の方向性を示唆し、正に「新たな登山道(歯周病学)を切り開く」素晴らしい書籍となりました。しか し、発刊後13年が経過し、その間、歯周病学は目覚しい進歩を遂げました。
 病因論については、歯周病原細菌の様々な潜在的病原因子が報告され、当該因子と宿主との相互作用についての研究が進展し、遺伝子レベルでの解明が進んでいます。さらに歯周炎の危険因子が存在し、その有無によって歯周炎の発 症頻度や重症度が異なることが疫学研究で明らかにされました。喫煙などの環境因子のほかに、糖尿病などの全身疾患、サイトカイン遺伝子や免疫グロブリン遺 伝子などの遺伝子多型も報告されています。また、逆に歯周炎が全身疾患に影響を与えることが明らかにされました。歯周病原細菌の内毒素や歯周炎局所で産生 される炎症メディエーターにより心臓・血管系疾患、早産・低体重児出産、糖尿病や誤嚥性肺炎などの全身疾患のリスクが上昇することが報告されています。今 後、歯周病と全身疾患との関わりはペリオドンタルメディシンとして歯科医科連携の重要な鍵を握っていると考えられます。
 治療法に関しては様々な 歯周組織再生治療(periodontal tissue regenerative therapy)が開発され、骨移植、GTR法、生物学的根面処理(エナメルマトリックスタンパク質の適用)が臨床実施されています。さらにサイトカイン 療法としては、トランスフォーミング増殖因子(TGF-β)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン様増殖因子-I(IGF-I)、骨形成タンパ ク質-2(BMP-2)、線維芽細胞増殖因子(FGF-2)などの細胞増殖因子の臨床応用が模索されています。細胞移植療法も注目されており、歯周組織構 成細胞や当該細胞に分化可能な幹細胞をin vitroで培養後、歯周病罹患部位に移植し積極的に歯周組織を再生させようと試みられています。
  このような状況の中で、この度『歯周病学』を大幅に改訂し、歯周病および歯周治療に関して基本的事項を網羅し、体系的かつコンパクトな教科書となることを 編集方針とした新たな『ザ・ペリオドントロジー』を上梓することになりました。用語については『歯周病専門用語集』(日本歯周病学会編、医歯薬出版、 2007年)に準拠し、かつ内容・項目に関しては「歯科医学教授要綱」(平成19年改訂)や平成22年版歯科医師国家試験出題基準を踏まえています。初学 者にとってはこれから歯周病学を学んでいく上で土台となる基礎知識の修得に、歯周病の治療に改めて取り組まれようとされる先生方にとっても知識・技術の再 確認・再構成に役立つと考えられます。紙面の都合によって各々のテーマを深く掘り下げることに限界があるため、特に必要な個所は「アドバンス編」として解 説し、ほぼ歯周病の全領域にわたって各テーマの更新が行われています。1996年の初版から13年を経たこの改訂版によって歯周病学の進歩と現状を伝える ことができれば幸いです。

平成21年8月
和泉雄一

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